* はねがほしい *

空の高み。遠いところ。
どこまでも、どこまでも、連れていってくれる翼を欲しがっていた。
私はずっと忘れていたのだ。翼はひとりでに動かないこと。
与えられるのを待つばかりで。恵まれたひとを羨むばかりで。
生きていて感じる手応えのなさを、すべて他人のせいにしていた。

あのひとの翼を見たことがある?
砂糖でできた綿菓子みたいに、ふわふわ、ふわふわ。汚れたモノで できた 私とは違う。
とてもとてもキレイなのだ。キレイなものだけでできているのだ。
ほんとうに綺麗で。私なんかとは、そもそも造りが違っていて。
「はじめからキレイな人って、いいわね」。

……私は、あのひとに怒られた。

あのひとの羽根に触れてみた。想像どおり、ふわふわしていた。
だけど想像よりもずっとリアル。傷ついたり痛んだり……そんなにキレイなものじゃなかった。
「私の羽根と、変わらないじゃない」
わたしは、思わずそう言った。あのひとは今度は怒らなかった。
どうしてだろうと考えてみたら。

わたしの羽根も、輝きはじめた。あのひとは なんだか微笑んだみたいだ。

……ほら、ね?
私はやっぱり、あの人に敵いはしないのだ。
でも、なんだか今は。
素直に、本当に素直に、「ああ、それだから」と笑うことができる。
いつか、追いつけたらいいな。そして、並んで歩けたらいいな。





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