彼はそこに立って それからフルートを取り出しました
草のにおいのする野原の ちょうど真ん中のあの木の下で
彼の奏でる音は草原を踊らせ
夢を見るような音色が 草に染みとおり……

遠い遠いところから
いつの間にかやってきた彼は
私の生きるこの野原を 楽園に変えた人です

彼の目に留まるには 私は小さすぎるけれど
風に揺れながら共に唄えば
さらさら さらさら
擦れた葉の音は祝福となって
彼の元に届くでしょうか

ああ神さま
小さな私にふさわしい 小さな小さな願いです
「愛しています」 告げたい言葉は届かなくても
彼が紡いだ音色だけは
風が吹いても途切れぬように
涙をこぼす日々があっても
この楽園が彼を守るように

優しく風がそよぐ日には 笛にあわせて踊るから
どうか どうか

私が枯れた後の野原にも 優しい風が吹きますように




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